年の初めの…
         〜789女子高生シリーズ
 


      2



 3が日も過ぎて、世間様では“仕事始め”も迎えの、お正月という全国共通のお休みはボチボチ終しまいとなりつつある頃合いだったが、それはあくまで大人たちの世界でのお話で。

 「お邪魔しま〜す。」
 「………。(します)」

 まだまだ新学期まで間がある学生にしてみれば、ああやっと、平生のリズムが戻って来たなぁという感覚の下、さあどこで遊ぼうかという“休暇モード”のまんまなのでもあって。海外脱出組も少なくはない、由緒正しきセレブなご学友らとは、色んな意味から一線を画しておいでのこちらのお嬢様たちは、年末年始も実家においでのまま、ご家族と共に伝統的な過ごし方をなされたのち。やっぱり仲良しさんたちと居るのが一番楽しいとばかり、学園の間近にある神社へ初詣に行ったり、行きつけの繁華街の冬物バーゲンへ突撃してみたり、

 「スーパー銭湯にも行きましたよね。」
 「…、…、…vv」
 「面白かったですよねぇ♪」

  そうですか、久蔵殿も初めてでしたか。

  でもでも、大きなお風呂といや、
  久蔵殿にはホテルの温水プールがあるでしょうに。

  〜〜〜〜〜。(否、否、否)

  全然違いますよぉ、ヘイさんたら。

 「プールでじっくり肩まで浸かったまま動かないなんて、
  どっか何か変な人じゃないですか。」

 海外のスパとは違う…と紅ばらさんがやっと言い返し、ヘイさんだって 水着は着ないのかとボケて見せないくらいには日本の温泉にも詳しいクセにと、白百合さんも付け足せば、

 「えへへぇ、バレましたか。」

 ちょっとからかってみただけですよと、何かと無垢で初心な久蔵へ“ごめんね”と苦笑をみせる平八で。今日はそういった外出もほどほどにしようとの骨休め。七郎次の家へと集まって、お喋りして過ごそうとの構えでおいでの彼女らであり。そんなせいか、おしゃれの方もほどほどの大人しいもの。この冬もレイヤード、重ね着がブームを続けているのへ乗っかったか、ニットのミニワンピ風チュニックに、ペチコート代わりのような短いスカートを合わせた下へ濃色のレギンスはいて。そんなせずともすらりとした脚を、尚のこと長く見せておいでの白百合さんならば、こちらはジレをまとったようなデザインのやはりチュニックに、ミニスカートじゃあなくのホットパンツにしているのが紅ばらさん。そして、ちょっぴりレトロなハイウエストのジャンパースカートに、立て襟のスムーズセーターを合わせた装いが、幼いお顔をより甘く柔らかく印象づけておいでの、そんなひなげしさんがテーブルに置いたふろしき包みを手慣れた様子で広げると。さほど華美ではないながら、品のいいお重箱が姿を現して。

 「お待ち遠さまですvv」

 ぱかりと蓋を開ければ、淡い色合いながらも、赤や黄色、緑に緋色に橙と、まだ先なはずの、春の訪れを一足早く持ち込んだかのような、そんな優しい色合いや姿した、様々な工夫を凝らした練り切りやお饅頭が並んでおいで。

 「わあ…。」
 「………。(美、美)」

 ぎゅうひ餅に焼き入れで目や耳を描いた雪ウサギに、サザンカだろうか緋色の花の練りきりがあるかと思や、紅色のグラデーションが裾へと散って霞む 酒蒸し饅頭は、初日の出、なのだそうで。雪だるまのお顔付き じょうよ饅頭に、串に連ねずの1つずつという ずんだ餅は、緑の枝豆あんこをまとわせたところが、造り酒屋に吊るされる“新酒あります”という目印の杉玉を模したものだそうだが。

 「お酒飲む人じゃないと判らないかもでしょか。」
 「そうかもねぇ。」

 月餅風の亀と かるかん風の鶴もいて、何ともお見事なお正月仕様の和菓子セットは、五郎兵衛さんの手作りの品。勿論のこと、売れ残りなんかじゃあなく、今朝早くに作ってくださったばかりの食べごろ餅ばかり。

 「お茶、淹れましょうね。」
 「あ…。」
 「おお、久蔵殿。それって宇治の○○庵の極上煎茶では?」

 お茶会しましょとの集まりだから…と言うのじゃあないが、平八がお菓子を持って来ると言っていたからと。じゃあ自分は、今日の差し入れにはこっちを持って行こうと機転を利かせたらしい。貰い物だと言いはするが、それでもこの心遣いには平八も七郎次もいたく感じ入った様子であり。

 「まあまあまあ、気の回るお嬢さんになって。」
 「さぞや兵庫せんせえも喜んでおいででしょうに。」
 「〜〜〜〜。」

  え? そんな草葉の陰にいるような言い方はよせと?
  勘もよくなって来ましたわね、久蔵殿。
  〜〜〜。(こら)

 相変わらずの軽やかな会話に笑い転げたり、

 「ああ、ちょっと待ってくださいな。」
 「そうそう。冷まさないといけません。」
 「〜〜〜。///////」

 愛らしいお顔を寄せ合うよにして、そりゃあほのぼのと睦み合ったりしてみたり。こちらも相変わらずに猫舌のままな久蔵なのへ、香りが逃げぬ程度に冷ましてやった煎茶を渡しつつ、甘く細めた目許に笑み浮かべ、大親友を見つめやる白百合さんで。

 「こういうところはいつまでも変わらないでいてくださいね?」
 「おや、シチさんたら、
  甲斐々々しさでは榊せんせにも譲らないおつもりで。」
 「当ったり前ですわvv」

 そこは ふんっと鼻息も荒く胸を張り、

 「何年も何年も傍にいながら、
  お年頃のヲトメの心理がちいとも判らない
  そんなお鈍なお医者様なんかに負けるものですか。」

 きれいな拳をぐうに握って、やや天井のほうを見上げた白百合さんだったのへ、

 「それ言ったら、
  犯罪心理にばかり長けてる警部補もいい勝負なんじゃあ…。」

 「  …、…、…。(是、是、是)」

 一応は遠慮がちに、七郎次には聞こえぬよう気を遣いつつ、あとの二人から、控えめなツッコミが入ったのは言うまでもなかったり。(苦笑)


  ……などなどという


 彼女らなりの、つまりは微妙に女子高生らしからぬ新年会、別名、いつもの茶話会が催されていたそんな中、

 「…お。それってシチさんのですか?」

 場がどっと沸いてから、そのまま ふっと、話題が途切れた間合いとなって。お茶を取り替えますねと、湯沸かしポットを置いていたサイドボードへ白百合さんが立ったのを、何げに追った平八の眸が留まったのが、いつもの七郎次お嬢様のお部屋にはなかったものへ。基本、フローリングの洋室で、七郎次自身も シンプルにと心掛けつつも西洋雑貨でコーデュネイトを統一しているものの。さすがに正月だったからか、サイドボードの上、深みのある紫檀風の天板に白い影も写り込んでのようよう映える、和風の飾り物が立て掛けられてある。それは見事な飾り張り絵の羽子板で、綿を入れて厚みを持たせたパーツを組み合わせて貼った、浮世絵風の女性のお顔と襟元までが細工されてあり。紅色の絹で束ねて娘髷を結った髪には 藤を模したびらや細かい銀短冊のきらきらと下がったものやら、べっ甲風のものなど様々なかんざしを飾り。襟元に幾重も重なった着物は、金銀の錦も豪勢な、西陣だろうか贅を尽くした織物が使われていて。

 「お節句の雛人形とは別、
  最初の年越しにあたるお正月には、
  こういうのも縁起物として飾るんですってね。」

 祖母がわたしにも揃えたいねぇなんて言ってましてね。ただまあ、アメリカンな家にはどう飾ってもちょっと浮いてしまうんで、お雛様同様、結局は揃えなかったんですがと。結構詳しいことを言いつつ、縮緬を張られた白いお顔を興味津々眺めやる平八で。それを聞いて、彼女も立ち上がって来た久蔵が、

 「ウチも…。」
 「え? 久蔵どののところもないと?」

 肝心な初節句になと付け足し、こっくり頷いた久蔵によると。相変わらず、男の子が生まれたのだと間違われていた延長から、破魔矢だの戦国武者だの兜だのばかりが正月節句に向けても届き倒したその上、両親が軌道に乗りたてだったホテルの運営のほうへばかり、掛かりっきりだったこともあり。丁重にお断りするにしても、実は…と言い繕うにしても、肝心なご両親の手が塞がりまくっていたがため。主人を差し置き、そうそう出過ぎた真似も出来ないと思ったらしき、お屋敷の人々がどうしたかといやあ、

 「しょうがないからと、そのまま飾りの、
  オレは やたら青や紺のベビー服を着せられて、
  武者人形と一緒にいるところでお礼の写真を撮られの、していたらしい。」

 「そ、それはまた…。」×2

 ご本人いわく、さすがに赤ん坊のころのことで覚えてないし。そんな逸話を聞いたお祖父様が、翌年、豪勢な羽子板をと用意してくださったので、無いという訳じゃあないのだが。ただ、

 「邪を払う縁起物の、意味があるやらないやら…。」

 生まれたての身だからと揃えられる縁起物だろにと、そこが気になっていたらしいとのことで。何よりご当人が淡々としておいでで、拗ねてなんかないのだろうが、

 「う、う〜ん……。」
 「どうなんだろう、その点は。」

 アメリカ生まれだから、現代っ子だから判んないやと。訊いたお嬢様とさして変わらぬ年頃だけに、そんな言いようをしたあとの二人じゃああるけれど。実は…過去も過去、大過去の蓄積もあるはず、しかも剣にしか関心がなかった久蔵よりは世慣れてもいたろうにと。紅ばらさんとしては、それもあって訊いたようなものだろに、

 “何せ、男でしたしねぇ。”
 “それに、そういう風習やしきたりなんぞは
  家庭を持たねば判らぬことだし…。”

 前世からの相性込みで 時にお姉さんぶる彼女らにも、意外や こういう盲点はあったらしいこと、改めて明らかになったのはともかくとして、

 「縁起物についてはよく知りませんが、羽根つきならば覚えもありですよ?」

 んんんっと咳払いをしてからという、明らかな仕切り直しを構えたらしき七郎次の言いようへ、

 「あ、わたし 実はやってみたかったんですよぉ。」

 これへはさすがに、覚えがないことを隠しもしないで、幼子のように“はいはいvv”と手を挙げる平八で。まさかにこの羽子板でするんじゃないですよねぇ、いやいや これじゃあ重いし、何より細工が傷んで勿体ないしと七郎次が応じ、その傍らでうんうんと頷いた久蔵が、

 「中等部で大会があった。」
 「え、あの女学園の、ですか?」
 「今更かもですが、結構アバウトですよねぇ。」

 ちなみに…久蔵殿も出たのですか?と、外部入学の二人が問えば。細身の白磁のお湯呑みを、お行儀よく白い手に収めて啜りつつ、うんうんと頷いて見せた紅ばらさんであり。

 「二年と三年で連続優勝したぞ。」
 「おおお、さすがは ○スカル様。」
 「……? 何ですかそりゃ、ヘイさん?」

 知らなかったんですか、シチさん。久蔵殿が紅ばら様と呼ばれ出したのは高等部に上がってからで、中等部時代は下級生たちから“○スカル様”ってよばれてたそうですよ? ラスカル? パスカルかもですね…って、こらこら白々しい。(笑) ひなげしさんの いつもながらの情報収集力の素晴らしさよと、感心…というより何だそれと小首を傾げたまんまの、あんまりまんがは知らないらしい紅ばらさんの肩に手を置き、そのまま発進だと電車ごっこのように押し出して、

 「じゃ、じゃあ、これから羽根つきして遊びましょ。」
 「え? 遊べるんですか?」

 七郎次の言いようへ、久蔵も意表を突かれたようだったが、それより何より平八が何とも嬉しそうな声を上げており。

 「だってだって、ゴロさんもさすがに相手になってはくれませんもの。」

 思えば、キャッチボールやバッティングセンターには付き合ってくれますが、ベーゴマ遊びでは明らかに手を抜きますし、めんこもこっちに何十枚とハンデをくれたりするんですよと。女子への手加減にも程があるなんて膨れて見せる彼女だが。

 「…ふう〜ん、ゴロさんとそんな遊びもしてるんだ。」
 「あっ、いやあの、そのっ。///////」
 「………。(いいなぁ。)」
 「きゅ、久蔵殿? ///////」

 こういうのも、問うに語らず言うに落ちるというのでしょうか。
(大笑) やだもうっと真っ赤になった平八に追われる格好で、キャッキャとはしゃぎつつ、草野さんチのお屋敷の中、中庭に位置する蔵へと向かう、お嬢様がた ご一行なのでございました。



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 *おかしい。
  何でか、お喋りだけでこうまで長引いてしまいましたよ。
(大笑)
  これもまた、
  書き手の“おばちゃん化”のなせる技でしょうかねぇ。
  ということで、もちょっとお付き合いくださいませ。


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